シワさんのシァワセな話  特別編 
 旧道のランドマーク(目印)
  木のあるサイロ 壊しました
    語り手 川井 シワ
    聞き手 とやまきよむ

 五号線から旧道に入ってすぐに、屋根のなく、木が中から生えているサイロがありました。7月末に壊されてしまいました。持ち主の川井シワさんにお話を伺いました。
台風で屋根がとんで,木のある気になるサイロでした
 昭和33年から昭和53年まで、ちょうど20年間牛を飼ったんだ。搾乳の牛、多い時は6頭飼ったかな。獣医さんが間に合わなくて、私がお産を手伝った仔牛がいてね、その仔牛は私のあとを追って家の中までついてくるんだ。ある時、置きっぱなしにしていたDDT(農薬)をその仔牛がなめてしまってね。獣医さんはホースを咥(くわ)え、もう一方のホースの先を仔牛の口の奥の奥まで入れて吸い出そうとして、仔牛も苦しがってね、私はDDTを置きっぱなしにしたことが、獣医さんにも仔牛にも苦しませることとなって、申し訳なくってね。
 いろいろありました。仔牛も牡だと肉にしてしまうため、すぐ売ってしまうのがつらかった。牛の名札
 餌の管理が大変だった。少しでも乳脂肪分が多いものを出させようと、糖蜜(砂糖を搾ったあとのビートのカス)を混ぜたり、Ph(酸性度)調整のために重曹(炭酸水素ナトリウム)を混ぜたり、勉強をした。そのことで、牛屋さんとか、同じ乳牛を飼っている人とか、乳業の人とかいろいろな人に助けられた。皆さんのおかげです。
牛舎の中 牛の名札が残っています。

 主人が体を壊し、牛を手放すことになった。なんにも言わなかったけど、わかったんだろうね、子どもたちも切なくて見送りに出てこなかった。牛はトラックに乗るのを嫌がった。2頭は近くの家にもらわれていったんだ。私が車で近くを通ると、牛舎の中で啼くんだ。人間でもいろいろな人がいる。口は利(き)けないけど、牛の方が情けがわかるんだろうかね。
 私の元気なうちに、牛舎も崩れてひと様に迷惑をかけないうちに、ほぐそう(壊そう)と思ってね、牛舎もサイロも壊してしまいました。台風で屋根が飛んで、中から木が生えました。木のあるサイロ、気になるサイロ。旧道の目印だったけど、わかってください。                                   合掌
 そういえば、サイロから頭を出していた木は、太い桑の木でした。サイロト牛舎